■「取り調べは不当」なのになぜ有罪? 司法記者が解説【徳島】(徳島県)
7月11日、徳島地裁で行われた不同意わいせつ事件の判決公判。
「主文、被告人を懲役1年6月に処する」
「3年間、その刑の執行を猶予する」
下されたのは、執行猶予付きの有罪判決でした。
しかし、判決文には、こんな一文も…。
「不当な取調べをしてでも、被告人から自白を獲得しようとしていたものと断じざるを得ない」
取り調べの不当性を指摘したのです。
(小玉アナウンサー)
7月に下された、不同意わいせつ事件の裁判で下された判決について、司法担当の河野記者とお伝えしています。
(記者)
よろしくお願いします。
(小玉アナウンサー)
まず、これはどういう事件だったのでしょうか。
(記者)
事件があったのは2023年9月で、逮捕されたのは、徳島市の学習塾でアルバイト講師として働いていた32歳の男性です。
生徒が1人ずつ教室から廊下に出て、先生と生徒 1対1で行われた百人一首の暗唱テスト中、当時7歳の女の子の下半身を服の上から触ったなどとして、不同意わいせつの疑いが持たれました。
(記者)
男性は取り調べで自白。
「触ったという行為や、それが故意だった」と容疑を認め、その後、起訴されました。
(小玉アナウンサー)
裁判ではどうだったんですか?。
(記者)
裁判では一転、無罪を主張しました。
(記者)
弁護側は、「女の子がテストの採点結果を覗き込んできた際、偶然接触した」「意図して、接触してない」などとした上で、「自白は強引に引き出されたもの で、信用性はない」と主張したんです。
今回の裁判では、他にDNA鑑定などの決定的な証拠がなかったこともあり、この「自白の信用性」が大きな争点となりました。
(小玉アナウンサー)
弁護側が主張する「強引な取り調べ」とは、どのようなものだったんでしょうか。
(記者)
弁護側の主張では、取り調べを担当した警察官が否認する被告に対し、「認めないと初犯でも刑務所に行く」「故意か故意でないかは関係ない」「触ったか、触ってないか、それだけ」「弁護士は味方じゃない」などと威圧的な態度で迫ったほか、
(記者)
初日の取り調べは8時間を超えて自白するまで続けられたとしています。
また、「認めれば、被害者の母親が許してくれる」などと、供述を誘導されたとも主張しました。
こうした中、2025年3月、取り調べを担当した警察官が証裁判の証言台に立ちました。
(記者)
証人尋問で、警察官は、威圧的な発言を否定する一方、「認めれば、被害者の母親が許してくれるかもしれない」などといった趣旨の発言について、一部、認める証言をしました。
こうした審理を経て7月、徳島地裁が言い渡した判決がこちらです。
(記者)
「『認めれば、心証が良くなる』などと、事実と異なる情報で、自白を不当に誘導したといえる」さらに「威圧的な態度や弁護権の侵害があった」と認定。
(記者)
「不当な取調べをしてでも、被告人から自白を獲得しようとしていたものと断じざるを得ない」と警察官の取り調べを批判しました。
また、1日8時間を超えて取り調べを継続する場合、事前に上司の承認が必要なのですが、今回の取り調べ継続の決裁について判決では…。
(記者)
「実際には後付けで承認を得たことが疑われ、不当な取り調べを許容するような環境であったことを疑わせる」と警察官個人だけでなく、批判は県警の組織自体にも及びました。
(記者)
この取り調べの決裁について、四国放送の取材に対し、県警は「係争中の事案なので、コメントは差し控える」とし、一般論とした上で、「執務時間外などで上司が不在の場合、電話など口頭で上司から承認を得て取り調べを継続し、事後に書類を作成することは認められている」とコメントしています。
(小玉アナウンサー)
裁判所は取り調べの不当性を認めたということですが、では、なぜ有罪の判決だったのですか?。
(記者)
はい、裁判所は取り調べの不当性を認めた一方で、警察官ではなく検察官による取り調べでも自白している点。
被告のノートに、「自白を強要された」などの記載はなく、むしろ「触りたいという意思があったことに納得している」といった記載があった点などから、警察の取り調べに不当性はあっても自白そのものは信用できるとして、今回の有罪判決となったというわけです。
被告側は「取り調べの不当性を認定しておきながら、なぜ、自白の信用性を認めたのか疑問」として高松高裁に控訴しています。
(07/25 19:34 四国放送)
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