■アート@音を色や形に表現 15歳のアーティスト 人と地域をつなぐ(岩手県)
今月のシリーズ・岩手のアートです。1回目は、手足のまひなどがありながら音と色で人と地域を結ぶ15歳のアーティスト、奥州市の柏山大生(たいき)さんです。
奥州市前沢の山あい。ここに、不思議な縁が繋がり、15歳のアーティストへと託された"アトリエ"があります。
音楽を聴きながら―感じたままを色や形に変えていく。まるで玉手箱のような空間には、アートを通じ広がる、小さな幸せの連鎖がありました。
アーティスト、柏山大生さん。奥州市の支援学校に通う15歳です。アトリエに着くと最初にするのが、「選曲」。
母「見つけた?歌」
大生さん「(合図)」
母「あ、見つけた、いいよ」
J-POPから洋楽まで、ジャンルは様々。気になる1曲を見つけると、ひたすらキャンバスと向き合います。
「あ!きれい!」
母・紫帆さん
「大生にとって音楽が自分の人生を豊かにしてくれるもの。"自分はこれだ!"と気づいていると思います」
旋律は鮮やかな色彩に、リズムは躍動するタッチとなる。言葉に変わる―作者の"言葉"。不思議な調和に包まれた作品は、見る人の心をそっと照らしてくれます。
2010年5月。双子の兄として生まれた大生さん。その時の体重は、わずか588グラム。超低出生体重児として、両手足のまひや言葉の障がいが残りました。
母・紫帆さん
「その日一日を生きるのに必死で、あまり大変さみたいなものは思い浮かばないんですが、けど…。ただ、振り返るとテレビとかで曲が流れてくると、リズムが手拍子とかすごい上手に出来たりとか、自分自身も喋れはしないけど体を動かして、音楽に乗って何かを表現して伝えたい。そういう強い気持ちはあるなって思いました」
幼い頃から大好きだった"音楽"そのリズムは、やがて苦手だったという"絵"と結び付きます。
母・紫帆さん
「絵が苦手で…。家で音楽をかけたら、ノリノリで描き始めて。そのことを小学校(支援学校)の先生に伝えたら、授業で取り入れてくださった。学校で賞をもらって、公募展で賞をもらって、そん時すごい嬉しそうだったんですよ。それからですね」
母・紫帆さんは、日々の作品をSNSで発信。反響は広がり、大生さんの世界も大きく広がりました。
そして今年春、念願のアトリエギャラリーが誕生。森の中にひっそりと佇む古民家で、細部の装飾まで味わい深く、訪れる人をワクワクさせます。
カドクラ氏「いたいた。おーい、元気?覚えてるかな?」
訪ねてきたのは、この古民家の元住民、カドクラ カツユキさん。自身もアーティストとして活動する、いわば大生さんの大先輩です。去年12月、偶然の出会いが重なり、およそ10年を過ごした創作の場を大生さんに託すことになりました。
カドクラ氏
「共通の知っている本屋さんで、たまたま用事があって行ったら店主がちょっと用事で出ると、たまたま少し店番をしてたんです、その時にいらっしゃって(。当時、引っ越しを考えて売れるなら売ろうとしてた時期だった)」
一方、紫帆さんも作品の保管や大生さんの制作場所を探していた頃。本屋の主人の仲介もあり、話はとんとん拍子に進みました。
カドクラ氏
「この場所を選択してやり始めた時から何十年ぶりに絵を描き始めた。入り込んで描けるすごく集中して描ける場所だった。そこも引き継いでもらえるのかなと思った」
表現者から表現者に託されたアトリエ。偶然か運命か、大生さんがここで新たな歴史を紡ぎはじめています。
母・紫帆さん「こんにちは」
訪れた親子「よ!(たいきさんへ)タッチ!」
在廊の日は、作品を前に曲を紹介したり、子どもたちと一緒に描いたり、「選曲」も欠かしません。
母・紫帆さん「合う曲にしてくれたの?かわいい曲に」
大生さんが作り出す、ゆっくりと流れる優しい時間。その光景を見て、母・紫帆さんが思い返す言葉があります。
母・紫帆さん
「(幼稚園で)大生が本当に何も出来なかったんですけど、先生に何か本当に申し訳なく、ごめんなさいって、謝ってばかりだったんですけど、その先生が『大ちゃんはみんなも優しくしてくれます』って言ってくれて、そうか、大生にも出来ることがあるって」
作品は、地域との繋がりも広げています。平泉の新たな温泉施設では、大きく展示販売ブースを設置。そしてウクレレ奏者・ツジヤマガクさんとの共演も話題になりました。
一枚の絵が、人と人を結びつけています。
母・紫帆さん
「誰にとっても安心できる居場所に、来た人が自分らしく心豊かに生き生きと過ごせる居場所、そうなってくれたら」
「音を感じ、色に変えて。違いを違いと思わずに受け入れる力。この場所で新たなつながりと歴史が生まれていきます」
(09/04 18:38 テレビ岩手)
・TOP
Copyright(C)NNN(Nippon News Network)