■食料クライシスB減反廃止 農家と専門家の意見は(岩手県)
8月に続いて食料生産を巡る危機「食料クライシス」をシリーズでお伝えします。3回目は、8月に石破総理が表明した事実上の「減反廃止」について専門家や農家の意見をお伝えします。
コメの値段は2024年秋ごろから急激に上がり始め、総務省がまとめた全国の平均小売価格は5キロで2024年5月に2264円だったものが2025年5月には4689円と、1年で2倍以上になりました。
政府は備蓄米の放出に踏み切り、盛岡でも6月に5キロ2138円で売り出されました。国は当時コメの高騰は流通の問題だと説明していました。しかし8月になって生産量が不足していたことを認めました。
石破首相
「(コメの)生産量が足りていると判断をしていたこうしたことが価格高騰を招いてしまった」
これまで農林水産省はコメの生産量は十分にあるとしていましたが、実際にはコメの品質低下による白米の歩留まりの悪化や外国人によるインバウンド需要などの高まりでコメ不足を招きました。
小泉進次郎農水相
「人口減少と高齢化で毎年約10万トンのコメの需要は減るんだと、こういった認識を固定化したまま需給の見通しを続けてしまったこと、この責任は重く受け止めて」
さらに石破総理大臣は「増産に舵を切る」と明言し、事実上行われてきた生産調整、減反を見直す考えを明らかにしました。
石破総理が事実上の減反政策廃止を打ち出した翌日。九戸村を訪ねました。
小井田重雄さんは、農林水産省が農林業に従事する人の実態を調べる農林業センサスの統計調査員を40年前から続けています。小井田さんはこの間に農家離れが進み、打ち捨てられた水田耕作放棄地が広がっていく様子を目の当たりにしています。
記者「きのう政府がコメを大増産すると減反政策はやめると大きく舵を切ったという報道がありましたがどう思われますか?」
小井田重雄さん
「コメが余ったので簡単に減反せよと進めてきて、今度はコメが足りないから農家はコメを作れ、そんな勝手な話をするなと言いたいです。うちの地区では13haの農地水田の水利組合があるんですが、農地を所有している人は52人います。実際に耕作をしている人はもう23人です。半分以下に減ってしまいました。わずか20年ちょっとの間でも減ってしまった。その中でも 50代以下、私はちょうど70歳になるんですが、私がだいたい中間ぐらいの担い手。田んぼ作っている人で本当に若い人は1人が2人ぐらいというそんな状態です」
農林水産省のまとめによりますと、全国の耕作放棄地の面積は1985年は13万5000ヘクタールでしたが、2015年に42万3000ヘクタールと30年間で3倍以上に増えてしまいました。その原因で最も多いのは高齢化と後継者不足による労働力不足です。
記者「先ほど耕作放棄地を見せていただきましたけれどもああいうところを復田するにも、やっぱりかなりの労力とお金が必要なんですね?」
小井田重雄さん
「さっき見ていただいた場所でもヨシ(イネ科の多年草)がかなり伸びていますし、あれを刈ってきれいに土を出して田んぼを平らにしてということにするのは、労力とお金はかなりかかるなというようなことは感じます。そんなに簡単に田んぼにはできないです」
2021年の農林水産省の統計によると、全国全ての稲作農家の平均農業労働時間は年間1005時間。これに対する農業所得は、わずか1万円でした。
岩手大学の横山教授は、労働力不足を招いているのが、農業の生産基盤の弱体化だと指摘しています。
岩手大学人文社会科学部 横山英信教授
「昨年から今年にかけてこそ米価の上昇、高騰が問題になっていますが、それまでは米価はむしろ生産者にとっては非常に低くて困っていた。農林水産省の統計によりますと、2021年と2022年、自営労働時間と農業所得ここから計算すると農家の時給は10円で、また2023年は若干上がりましたけれども、それでも時給97円という数値が出ています。これでは農家の経営はなかなか成り立ちませんし、やはり農家の所得をきちんと補償する制度が必要だと思います」
農地の基盤整備や農家の所得を補償することは、これまで「農家保護」のためと言われてきました。しかし2005年に140万7000戸だった稲作農家が2020年には71万4000戸と、15年で半分近くに減ってしまった現状を見ると、農業をどう守っていくかという視点が大切になってきます。
岩手大学人文社会科学部 横山英信教授
「日本農業の問題は農業者、農家の問題というふうに捉えられがちですけれども、実は消費者の問題であるということを強く訴えたいと思います。農家の方は自分で食料を作っていらっしゃるので、何かあっても自分で食べるものは自分で作る、自分で作ったものを食べればいいということになりますけども、特に都会の消費者は自分で食料を作っていないので、何かあった場合本当に食料調達難しくなるだろう。そういうように考えると、日本農業の問題というのは農業者、農家以上に消費者の問題だということを認識すべきだと思います」
食料生産の基本となる農業基盤をどうやって確立するか。まず農地と担い手をこれ以上減らさない、国や地方行政の取り組みが必要です。
(09/09 18:41 テレビ岩手)
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