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子どもの健やかな成長を願う「武者のぼり」日本の伝統と明治時代から続く技術を親子で未来へ《長崎》(長崎県)



“元気に健やかに育ってほしい” という願いが込められた端午の節句の『武者のぼり』。

佐世保市の老舗工場は、伝統技術とデジタル手法を組み合わせ、新たな形で伝え残しています。


勇壮で、色鮮やか。

勇ましい武将が描かれた『武者のぼり』。

子どもの健やかな成長を願う、端午の節句ののぼりです。

大きなものは、約7.5メートル。

見ているだけで元気や勇気が湧いてくる、圧巻の迫力です。

(川口家染工場4代目 川口直一郎 社長)
「武者のぼりは、全て手作業。
子どもの健やかな成長と、ご家族が仲良く過ごしていけるよう思っている」

制作しているのは、佐世保市相浦町にある「川口家 染工場」。

染め物を手掛ける会社です。

天下統一を成し遂げた、戦国武将 豊臣秀吉。

戦国大名 武田信玄と上杉謙信の姿が描かれた “川中島の合戦”。



絵柄は、約20種類です。

(妻 克美さん)
「お客様の主観で選んで頂いて、好きな絵柄、好きな長さを選んで頂ける」


手掛けるのは、武者のぼりだけではありません。

店の入り口を飾る「のれん」やチームを鼓舞する「横断幕」。

ノベルティーグッズなど、要望に合わせて様々な染め物を制作しています。



◆明治時代から続く伝統技術と心意気

川口家染工場は、1902年(明治35年)に、初代・直太郎さんが創業し、今年で123年目。

製造する武者のぼりは、明治・大正・昭和・平成・令和と、5つの時代にわたって愛されてきました。

(4代目 川口直一郎 社長)
「一番最初の段階、のり置き。上からのりを置いて型を作る」


のりは、石灰とぬか、餅粉を混ぜたもの。

隣の色が混ざらないよう、境目の壁の役割を果たすそうです。

(4代目 川口直一郎 社長)
「のりが染料の侵入を防ぎますので、のりがついているところは白になる。染料が入りません」



型紙を外すと、のりが立体的に浮き上がっていました。

次は「染め付け」。生地の絵柄に、顔料で色付けします。

担当の浅田さんは、この道30年のベテラン職人です。

(染め付け担当 浅田まみえさん)
「最初から最後まで神経を使う。“失敗をしない” ということが、常に頭にある。初心を忘れないようにと。商品なので…」

染め付けの仕上げは「顏描き」です。

直一郎さん自ら筆をとり、表情を入れて仕上げます。

(4代目 川口直一郎 社長)
「顔が一番難しい。魂が入るわけですから。表情一つで変わってしまうし、100人が見て100人とも “いい顔だ” と思ってもらえるものを目指してやっている」


総仕上げとなるのが「縫製」。

生地の端を裁断して、形を整えます。

(縫製担当 上床紗世さん)
「印を付けたりしないので、フリーハンド。基本はまっすぐ縫う作業なので、斜めにならないように同じリズムでやっている。
ここまで1週間以上かかるので、失敗しないように一枚一枚丁寧に心掛けている」


約10日間をかけて、完成します。

(4代目 川口直一郎 社長)
「一つひとつ手作りでやるので、思いがこもっている。それはあると思う」



◆少子化や物価高騰など厳しい経営環境 時代に沿った手法を模索

120年を超える歴史の一方で、少子化やマンション住まいの増加など、会社を取り巻く環境は、時代と共に厳しくなっているそうです。

(妻 克美さん)
「私が嫁に来た時おそらく一番ピークだった。注文が集中した時、330枚340枚という時があったので。(今は)10分の1ですね」


(4代目 川口直一郎 社長)
「(経営環境は)厳しいことは厳しい。非常に…」

そんな時、新しく会社に加わったのが長男の直人さんでした。

直人さんは佐世保西高校を卒業し、進学先の福岡の大学を卒業後、東京の広告代理店で働いていました。


(長男 川口直人さん)
「(創業)100年という会社は、簡単になくしてはいけないと考えて。戻って来ようかなと考えた」

代理店での経験を生かし、会社に新しい考え方や手法を取り入れました。

これまで書類で管理していた、注文書やデザイン画などをデータ化。

検索や変更、連絡などの業務効率が格段にアップしました。

(妻 克美さん)
「すごく覚えるまで大変でした。慣れてみたらもうこんなに簡単に出来るのかと思って。本当に大助かりです。大、大、大革命だった」

現在は、営業部長として売り上げアップに奔走しています。

この日、直人さんが訪れたのは、1775年創業の丸屋呉服店。

店内の「のれん」の更新を提案しました。

(丸屋呉服店 安永正平 代表)
「うちのイメージカラーは紺色。家紋が真ん中にあって。もう10年。毎日活躍しているので(更新を)考えましょうか」


(長男 川口直人さん)
「ウチの仕事は伝統工芸ですが、会社を経営では人と人とのつながり、『絆』も重要。つながりを大事にしながらやっている」



◆明治時代からの伝統を四代目から五代目へ


120年あまり愛されてきた伝統を、未来へつなぐため…。

今は父から子へ、技術の伝承を進めています。


(4代目 川口直一郎 社長)
「私の父もそうだったが、教えるというより “見て覚えろ” という感じだったので、ああしなさい、こうしなさいは言えない。今から上手になるでしょう」

(長男 川口直人さん)
「一朝一夕では、かなわないところが多々ある。全てにおいてすごいと思う。時間はかかるが、一つひとつやっていければ」

“どうか元気に育ってほしい”

その願いが詰まった手作りの『武者のぼり』は、これからも子どもたちの健やかな成長を見守り続けます。

(04/13 07:00 長崎国際テレビ)

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