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「学んでもどう活用?」高校生が語った水俣病の"伝え方" 武田真一さんと考える(熊本県)



(緒方太郎キャスター)
「DayDay.」MCで熊本出身の武田真一さんとリモートで結んでお伝えします。スタジオには東島さんです。



(東島大 記者)
実はことし、水俣病が風化しているのではと思わせるような出来事が相次いだんです。まとめました。

宇城市が市の全世帯に配ったカレンダーに水俣病は感染症という間違った説明を付けていました。市民からの指摘で発覚しました。そのすぐあとには、家庭教師のトライを運営するトライグループが「水俣病は遺伝する」というこれまた誤った情報を10年にわたり発信していたことがわかりました。事態を重視した環境大臣はトライグループに再発防止策を求めました。



こうした事態を受けて、水俣病の患者や支援団体は水俣病を正しく学んでもらおうという「水俣・差別偏見を考える会」を新たに設立、水俣病の伝え方を問い直しています。

(緒方太郎キャスター)
武田さん、こうしたニュース熊本では大きく扱われましたが、ご存じでしたか?


(武田真一さん)
こちらでも全国ニュースで広く伝えられていました。水俣病が感染症であるとか遺伝するといった認識の何が問題かというと、感染症や遺伝っていうのは誰のせいでもないですよね。でも公害というのは、原因企業であったり、それを放置した行政の責任が問われるということで、その公害がもたらした教訓というものがうまく伝わらなくなるということがいちばん問題なんじゃないかと思いました。とても危惧しました。

(東島大 記者)
来年、水俣病公式確認70年の節目を迎えるのにあたって水俣病をどう伝えるかがクローズアップされている。そんな中で実は私、先日、県立水俣高校で水俣病について話をする機会があったんです。

(武田真一さん)
若い人たちにどう刺さるか、工夫が必要ですよね。

(東島大 記者)
そもそもふだん10代と話す機会もありませんので学校にお願いして、講演の前に生徒たちと直接話す機会を作って貰いました。それがこちらです。ご覧下さい。



【VTR】
11人の生徒たちが放課後に集まってくれました。

■佐々木成美さん
「ちっちゃい時からもうずっと水俣病の学習をしてるので今はもう議論とかしないかなと思います」

一方、高校入学を機に福岡から水俣に引っ越してきたという藤本さんは。



■藤本綾斗さん
「あんまりいいイメージはなかったです。水俣に行くって(福岡の)友達に言った時も『水俣病の?』というひとこと目が多かったんで。外から見ると水俣や水俣病に関する知識はそれぐらいなのかなみたいな」

■田中泉妃さん
「水俣イコール水俣病っていうその考えとか偏見をなくしていきたい」


そう語った田中さん、私が思ってもみなかった指摘をしてくれました。

■田中泉妃さん
「やっぱり自分たちが行動していかないといけないんですけど、そういう機会がないので、自分たちから発信できる場が欲しいというか、機会があればいいなって思います」

そして別の生徒も。

■江口陽人さん
「学ぶのはいいんですけど、学んだ知識を活用する機会っていうのがぜんぜんないんです」

【スタジオ】
(武田真一さん)
歴史上の出来事だとか知識としては学ぶことができていても、じゃあ今のその社会課題の中にどうやってその教訓を生かしていくかっていう部分はなかなか考えられないっていうことですよね。それはもしかしたら我々の世代も、これからの未来にどうつなげていくかっていう議論はあんまりしてこなかったかもしれないですね。

(東島大 記者)
生徒たちの側から発信する、これをキーワードに講演することにしました。


【VTR】
水俣高校の全校生徒は400人あまり。体育館に集まるにはまだ暑いので、視聴覚教室を中心に各教室をリモートで結んで行いました。みなさんの真剣なまなざしが私に刺さります。



■東島大 記者
「大人たちっていうのはたとえば水俣病のことについてですとか、3.11のことについてですとか、そういうことについて子どもたちが発言するのは、不用意に発言すると炎上するんじゃないかとか。そういうことを心配してなかなかそういう場を設けてこなかったんじゃないかと皆さんの方から逆に言われて、私も改めて思いました」
「うかつに触ると危ないよというイメージがあるといずれ必ず忘れられるんです。話題にのぼらなくなって、そうなってしまってから後悔しても遅いんです」
「なんでタブーなのか、なんで触っちゃいけないのか、そっから考えなきゃいけないし、タブーにしないためには家でも親とでも、兄弟とでも、友達とでもいいし。そしてもっとその次には、知らない大人を相手に発信できる場もあっていいと思っています」

■生徒
「私たちは小学生のころから水俣病学習をたくさん重ねてきてるんですけど、それを発信する場っていうのは今まであまりなかった」
「生徒たちが学校を出て地域の人とか知らない大人たちとか後輩、自分たちより小さい子どもに自分たちが勉強してきたことを伝えるのがぱっと浮かぶかな」

すでにこの講演会を撮影して発信する準備をしていた生徒もいました。

■須崎優奈さん
「こういうインスタとかTikTokとかを使って若い世代の人たちにも、テレビとかよりやっぱりSNSの方が見ると思うので、そういう現代のものでわかりやすく発信していけたらいいなと」


■齋藤一矢教諭
「今までなかなか発表の場は作れていなかったのかなと思います。私も水俣高校の卒業生として実際に小学校からずっと水俣病の学習はしてきましたが、振り返ってみますとやっぱり自分たちもただもう聞くだけで、受け身で終わってしまっていたので、そういう状態だとなかなか深められないのかなという気はします」

講演のあと、話を聞いてくれた生徒にも尋ねてみました。

■生徒
Q発信したいと思いますか?
「そういう場があるならぜひやってみたいと私は思ってます。用意されるんじゃなくて自分たちで(発信の場を)用意しないといけないみたいなことを感じたので、何からすればいいのかわからないっていうところはあるけど、できることがあれば取り組んでいきたいなと思ってます」

【スタジオ】
(武田真一さん)
生徒の皆さんがこう伝えたいんだっていう思いがこう芽生えたというのが、すごく心強いなと思いましたね。やっぱり今の問題だというふうに捉えることがすごく大事じゃないかと思うんですね。当時のチッソっていうのは、食料を増産するために欠かせない化学肥料であるとか塩化ビニールっていう当時最先端の素材を作っていたような非常に重要な企業で、今で言えばたとえば半導体とかAIのように、国の将来を左右するような非常に重要な産業を担っていたと思うんですよね。そういった熱狂の中で、そこに住む人々の安全や健康がないがしろにされてきたっていう、非常にこれは今に通じる教訓があると思うんですね。だからこのことを今、あるいは未来への教訓として感じてもらう、そして伝える工夫をしてもらうっていう風に我々もうながしていかなきゃいけないし、考えていかなきゃいけないなと思いました。

(東島大 記者)
この講演を聞いてくれた生徒さんたちの感想が届いたんです。発信するプロの武田さんに聞いてほしいものがあります。


(生徒からの感想文)
「胎児性水俣病患者さんたちも高齢になってきて、当時の水俣を知る人たちから直接話を聞ける最後の世代が私たちであるという焦りを最近感じていました。きょうの講演を聞いて、抱いていた焦りに対して、自分が伝える立場になった時に、自分ならどのように伝えるかを現実的に考える機会になりました。表現力や語彙力を身につけるより、知ろうとする思いが強いことが発信力に結びつくと思いました」

(武田真一さん)
本当にその通りだと思います。そうやって本当に生の声を直接聞いて、それによっておそらく聞いた若い人たちも心が震えると思うんですよ。その心の震えをですね、ぜひ周りの人や次の世代に伝えていってほしいなと思います。沖縄にひめゆり学徒隊の人たちのことを伝える記念館がありますよね。そこでずっと語り部活動をされていた、本当に戦争を体験した方々っていうのはもう今ほとんどいなくなってしまいましたが、そういった役割を若い人たちが今引き継いでるんです。そういったことも可能だと思います。


(09/24 19:52 熊本県民テレビ)

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