■「未来の可能性感じるワインを」海風が吹く“とみおかワイナリー”に込めた思い 福島県(福島県)
地元の食材にこだわった料理とワインとのマリアージュ
福島第一原発の事故の影響で一度は、住民がゼロになった富岡町。そこに、この春、ワインの観光施設「とみおかワイナリー」が完成しました。
原発事故の苦難を乗り越え富岡町に新たな文化を根付かせる。その挑戦にかける思いを取材しました。
常磐線が通り、海風が吹く場所にそのワイナリーはあります。富岡町の「とみおかワイナリー」。いよいよ17日にグランドオープンします。その魅力の1つがのどかな景色。目の前に広がるブドウ畑にはワインの原料となるブドウの木、1万6000本が植えられています。
この景色を眺めながら味わえるのが地元の食材をふんだんに使った料理です。こちらは、浪江産のしらすとあおさを使ったパスタ。
食事に合わせるのは、もちろん「とみおかワイナリー」自慢のワインです。肉や魚に野菜と、県産の食材にこだわった料理とワインのマリアージュが楽しめる「とみおかワイナリー」。ここを作ったのが遠藤秀文さんです。
震災・原発事故…苦難があったからこそ“この地で再出発”
■とみおかワイナリー 遠藤秀文さん(53)
「ここは震災の5ヶ月半前に私の初めてのマイホームが建てられた場所です」
建てたばかりの自宅は2011年、震災の津波で流され、古い蔵だけは残りました。
■とみおかワイナリー 遠藤秀文さん(53)
「この蔵は遠藤家として残った唯一の建物でもありますし、あとはいろいろな方の一つの原風景、昔を思い出すための建物として大事に保存しておきたいなと思いました」
いつかこの場所で再出発したい。遠藤さんは、その思いをずっと持ち続けてきました。福島第一原発の事故で富岡町は全町避難となりましたが遠藤さんたちは再出発に向けて動き出します。
それが、ブドウの栽培。2016年から有志と一緒にブドウの木を植え、育ててきました。
最初は思うようにいかずブドウの葉が病気にかかり、実がならない年もありました。
しかし、4年目の秋にようやく。そのブドウを使ったワインができあがりました。そして、活動を初めて10年目となるこの春、念願のワイナリーが完成したのです。
これまでは収穫したブドウを別の醸造所で仕込んでいましたが、醸造施設も整備し、今度からはここでワインを仕込むこともできます。
■とみおかワイナリー 遠藤秀文さん(53)
「ワインをきっかけにこの地に足を運んでいただいて、この地域のいろんな課題も感じていただくこともあると思いますけども、これからの未来の可能性っていうのも同時に感じてもらえる、そういう場所にしたいな」
若者息吹く拠点にも
ふるさとに希望を与えた「とみおかワイナリー」。ここで特別な思いを持って働く若者がいます。
■とみおかワイナリー柴田絢さん(23)
「自分が復興とか街づくりとかに興味があってここの取り組みがいいなと思いまして」
青森県の大学院で学ぶ柴田絢さん。卒業に向けて研究をする傍らアルバイトでワイナリーのショップを担当しています。
■とみおかワイナリー柴田絢さん
「皆さん本当に人が温かくて、そういう人にひかれたっていうのは一番大きいのかなと思っております」
研究の一環で町を訪れたり、ブドウ栽培のボランティアに参加したりするなかで富岡町にひかれていきました。卒業後は富岡町の企業に就職し、ワイナリーにも関わり続けたいと考えています。
ワインが紡ぐふるさとの未来
グランドオープンを控えた5月8日、ワイナリーのスタッフたちは漁港へ…
■とみおかワイナリー 遠藤秀文さん(53)
「きょうは晴天の下、釣りができる。本当によかったです」
なんでも、きょうは「釣り」をするそうなんです。福島の海の豊かさを知ったうえで、料理やワインを提供したい。そんな思いから企画しました。
この日は、メバルやソイなどが次々と釣れました。
■とみおかワイナリー 代表 遠藤秀文さん
「潮風浴びたワインですから、目の前の海でとれた魚とのマリアージュってのをこれからもどんどん追及していきたい」
船を出した地元の仲間も、今後の「とみおかワイナリー」に期待します。
■釣り船長栄丸 石井宏和船長
「町が一歩進んだなって感じがします。どんどんにぎわって、いろんな人たちが来てくれるようになると嬉しいですね」
豊かな自然、そして、おいしい海の幸を体感したスタッフたち。その魅力をワインと一緒に発信していきます。
一度は住民がゼロになった富岡町。そこから立ち上がりワイナリーは今、町の新しい歴史を作り出しています。
■とみおかワイナリー 遠藤秀文さん(53)
「ブドウは一回植えれば100年以上その場所に育ちますので。やっぱりそれが地域の文化にもなってきますし、時間とともにワインの品質も上がってきます」
遠藤さんが見据えるのは100年後のふるさとの未来です。
■とみおかワイナリー 遠藤秀文さん(53)
「次の世代・次の次の世代が、この基盤を最大限活用し、また引き伸ばしてですね、富岡町だけじゃなくて本当にこの地域全体をつなぐ役割、100年後には本当にいろんな地域がつながる、そういう求心力のある場所になればな」
(05/16 18:53 福島中央テレビ)
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